◎現役早慶展を見て(12/12?17ヒルトン東京)
昭和34年卒・古怒田 潔
今年の早慶展の出展者は、W11人、K16人と少々寂しい感じがしました。秋の早稲田祭のあと撮影期間があまりなかったと幹事長のK君が説明をしておりました。せっかくの機会ですから、部員数70名に見合うたくさんの展示が見たかったですね。
全体に仕上げがきれいで、いわゆるデジタル加工でシャープの効きすぎたものやコントラストの強すぎるものがなく、気持ちの良い空間となっていました。額装は一人一人が作品の内容に合わせて工夫し、変化にとんだ展示となっていました。
内容も自分のテーマが決まって、専門分野に深入りする人がいるかと思うとレタッチの方法にこだわってアートの世界で作品作りをする人など興味深い傾向がうかがえました。ジャンルの一つである組み写真の作品が何点かあり、ドキュメント風なもの、ストーリー的な、また心象風景としてなど写真を通じての表現が多様化しつつあるように感じました。
Kの作品は対象を素直に表現した作品が多く、今秋のOB展の傾向がここにも見られました。Wの作品はそれなりの経験から、一ひねりした作品があり、やや難解といった感じでした。 画題からの作者の意図を写真からは推測できないものもあり、意あまって言葉足らず、わかりやすい写真を目指してもらいたいと思いました。
★「TAC DEPARTURE」
基地を飛びたつ自衛隊の飛行機、乗務員の顔が見えるほどのシャープさで一瞬をとらえています。これはいわゆるミリタリー写真の専門家のジャンルで余人の立ち入るところがありません。近代兵器は現代科学の最先端技術でつくられ、想像もつかない図鑑的な美しさです。でもなりふり構わず、相手を打ち負かそうとすると、あのオスプレイのように格好の悪いデザインを見せてしまうのかもしれません。
★「雨上がりの瞳」
人の命を削ろうとする飛行機と打って変わって可愛い猫の写真です。
モノクロで無光沢、コントラストのほとんどない、いわば眠い写真、サイズもひときわ小さい。展覧会の片隅にひっそりと飾られている写真だが、なぜか気になります。
雨上がりといっても路面に雨の降ったあとはなく、晴れ間の見える気配もありません。
でもこの小さな画面から、感じるのは小さな生命、生まれたばかりの奇跡のような生命を子猫の瞳の中に作者は見たのかもしれません。傍らの無機質な乗用車の排気口は、将来の過酷な環境を感じさせます。現代を生きる生命のあやふさを感じる写真です。
★「港」
3枚組の一枚ですが中心となる写真です。つかの間の着陸時間の間に大急ぎで貨物の積み込みをしている旅客機の写真ですが、大胆なカットで飛行機のボリューム感があり、作業員が3名それぞれの積み込み口に立っているという一瞬のチャンスをとらえました。単写真で十分ですが、到着、離陸という他の2枚の写真を添えてドラマテイックに空港を表現しています。
★「Invisible」
白い壁で有名なスペインのゴルドバの風景です。壁の落書きは“しゃりこうべ(どくろ)”に紙幣を撒いているカリカチュアですが、作者の興味をよびました。私は日本のことわざの「石に衣は着せられず」のスペイン版のようにうけとりました。インビジブルは絵の人物の顔が塗りつぶされているところから題名としたようですが、やや難解で、それらしき現実の人物を比喩的に点在させるとか、作者の表現を見たいところです。
★「たかく、高く」
2枚の組写真です。早朝のバルーン打ち上げで、体験試乗の機中からの一枚がメインです。
コスモスの花も下からのアングルで、青空を目指して茎をのばし、バルーンもバーナーバルブをいっぱい回して上昇しようとしています。ゴンドラの中からの間近な着火、上昇の写真はあまり見たことがなく、天空への希望がわくような力強さを感じます。組み写真としてはやや唐突な組み合わせですが、コスモスの花びらとバルーンの傘を作者の感性で結び付けるなど斬新です。
★「secret meanies」
CDのジャケットカバーの写真でしょうか?有名なミュージシャンはただいるだけで肖像写真になるといいますが、この人たちは有名なのでしょうか?でもネットでも出てこないところを見ると、まだ売り出し中のバンドなのでしょう。 この人たちがブレークしてビッグバンドとなった何年か後、この写真は大変な値打ちものとなるかもしれません。
そういえば、グループの人たちの表情から、青春そのものの挫折や苦悩、不屈の精神、将来への秘めた希望といったものを感じるのは私だけではないと思います。